2014年12月1日月曜日

名月


月をみて感動もなくひたすらに団子ほおばる爺さん七十

名月を愛でるかたわら異国では戦火交える人間たちも

土をこね土器を作ると張りきって老人たちのにわか陶芸

虫しぐれ浸みいる夜は悲しくて秋の長けゆく闇を見つめる

秋空に宇宙の広さ想像しコスモスとう名の花見つめいる

2014年10月7日火曜日

いかだ下り


激流のいかだ下りの船頭はお客の悲鳴に笑顔で応える

遠く来て熊野本宮八咫烏サッカー少年両手を合わす

朝顔の咲きて雷雲真青な空に湧き上がる原爆の日に

歯が痛く鬱々としてやけになり猫の尻尾を掴み振り上ぐ

蓮の池水面も見えずに繁茂して夏の終わりに花咲き狂う

南無阿弥陀


むらさきの小さな蝶がちろちろと記憶の闇に棲みついている

わが猫のぐったりしている様を見よ地獄の使い傍に来ている

南無阿弥陀友の行くのは黄泉の国暑さ寒さもなかろう国か

梅雨明けと気象庁より告げられぬ梅雨は明けても心は晴れぬ

夜のうち田を掘り返す猪の空腹抱える家族を思う

若き女性


若き女性                  実宝教雄

歌に言う「めだかの学校川の中」ガラスの水槽平成の今

夏近く雑草繁茂する畑は昔々は父祖の水田

悠然と翼広げて青鷺は茜の空を飛び去りて行く 

唐突の若き女性の訪問に保険屋と知ってもときめいている

家猫の他人にすり寄りわが嫉妬かすかに覚える梅雨の晴れ間に

星星


星星を見上げしのちに戸を閉ざす睡眠前の慣わしとなり

わが里に命のるつぼ魂をうつ百花の咲きて鳥競い鳴く         

わが猫は夜の異界に消えてゆく帰り来るのは明け方近く

緑濃く鶯の声いつか止む子育てなるか山のどこかで

「新世界」交響楽にアメリカで祖父働きし農場思う

2014年9月7日日曜日

媼の住い


桜散り鬱々とした昼下りいとおしくなり猫を撫でやる

遠方の友のメールに花水木咲きそろうとの添え書きのあり

集い来て平均年齢七十八歳春日(はるび)に入学熟年学級

山笑うかと新緑の山仰ぐ鳶が舞いて世はこともなき

庭に咲く花々を見て息災と安堵しました媼の住い

春彼岸日


春よ来い餌をもらえず寒に堪え鯉らはじっと寄り添い過ごす

春待たず鯉数匹が浮いている原因分からずただに悲しい

連翹の小株が花を開き初めここにいるぞと両手をかざす

土佐水木春の空気にそそと咲きわれが心の目薬となす 

うららかな春彼岸日に鶯も来鳴きて父母の墓石洗う

現役自在


見る夢は現役時代に戻りいて失敗ばかりで覚めてやれやれ

寒の池淀み蓮枯れ鯉かくれ雪雲映してじっと待つ春

山茶花は雪を被りて赤く咲く冬の無機質笑うかのごと

紅梅は恋人のごと白梅に寄り沿いて咲く春きたるらし

わが猫は餌食べごろり横になる何処にあろう我との違い

臘梅


元旦に孫に起され目覚めたり年に一度の大家族制

引籠る窓辺に活けし臘梅の満開となり香り薄るる

わが猫は寒風すさぶ野良に出て帰りくるなり冷えた身を寄す

冬温きひと日戸外に猫と我地獄に仏とつぶやきながら

山茶花は霜に覆われ咲いている白粉(おしろい)つけて嫁に行くのか

2014年5月3日土曜日

当麻寺(たいまでら)




極月


さ庭辺に蒟蒻を煮る煙たち師走の風はもみじ葉さらう

さ庭辺にもち米を蒸す煙たち年の瀬の風頬をなぜゆく

極月に友は八朔穫り入れる独り黙して氷雨に濡れて

極月に秋冥菊は棉となり風に抱かれ何処までも行く

わが猫は年の瀬を知らず正月も知らずに年を越そうとしてる