2016年10月11日火曜日

雑草


天国へいざなう声か鈴虫は闇の時空を独り占めする

ふるさとへ帰らんとして駅に立つ吾のまぼろし昔日となる

じじばばの墓石の前に佇めば我は少年かまどの温もり

家猫は気楽なものよ餌を食い鼠も捕らずまた餌を食う

とき来れば可憐な花を咲かせては雑草と呼ぶなと抗議している

遠花火


遠花火聞こえてくればあのあたり踊りにまぼろし浴衣の少女

ひぐらしの鳴く夕暮れは人恋しカナカナカナとちちはは呼ぶか

盆の宵子とのいさかいにているとしそうめんしようと孫娘(まご)

独り身は気楽でいいと見栄を張り香水などを付けて外出

寄せ書きの日の丸帰る玉砕で父を亡くした息子の元へ

野鳥


夏草の覆い尽くせるわが庭に亡父の化身か一羽の野鳥

刈り機持ち参上するは同級生畑に繁茂す草を見かねて

ほととぎす暮れても鳴いて血を吐くか蜥蜴を喰らい托卵もして

手に止まる糸とんぼの愛おしくお前は何時(いつ)に生を受けたか

鬼百合の鬼のごとくに咲いている鬼という名に恥じなく凛と

郭公


裏山に郭公が啼く托卵とう悲しき性を疎まれて尚

深海の蒼より濃ゆき四片(よひら)にも涙雨降る夜昼となく

東南の空に火星の行く見えて赤い目をした魔王の如し

故郷(ふるさと)の地球は生き物気まぐれに火を放ったり地をゆさぶったり

広大な銀河を旅してようやっと地球に帰り夢より覚める

炎巻く


炎巻く窯口に薪投げ込みて出来栄え思うか匠のひとみ

窯炊きて三日三晩の徹夜にて陶芸翁の皺深くなる

薪なげて焔渦巻く登り窯三日三晩途切れてならず

雑草に花のつけいてためらうは刈らないでくれと懇願されて

姪からの転居の報せ単身の夫の元へ娘と共に

山桜


筍を掘る唐鍬にざっくりと手ごたえのあり夕餉の楽しみ

(ろう)じろ我ここにありと山桜笑える山のあちこちに咲く

鶯の上手に鳴きて季はすすみ木々の葉先がきららに光る

いつよりか猫との同居腐れ縁いうなればこれも一期一会か

集まりて笑顔を見せる老人ら八十超えてまだまだ生きる