2010年9月13日月曜日


光輪(道の駅“紀の川”にて)

狸一匹

<22年度紀北短歌連盟群作コンクール受賞作品>

毛の抜けし狸一匹徘徊すわびしき村にも隔てなき春

初午の柴燈護摩供に投ぜらる万の願いに我も一願

蕗の薹かなしきまでにほろ苦くふと気にかかる遠住みの子ら
    
コスモスは止むなき雨に彩乱れローランサンのパレットのよう

緞帳の上がるがさまに霧晴れて装う山々喝采を呼ぶ 

火の山は沈思の山と変わりたり柿はもみじ葉掃い尽くして

青鷺を連れてわが師は逝き給う奥の高野のさらなる遠(おち)へ

幼子の重さ抱きあげ衰えし我が体力の程合いはかる

ペガサスのつばさ広げて天かける形の雲の黒くひろごる

月影に遠住むひとを映してはしたたかに酔い時空を超ゆる
   

たった三日

   
この夏は田舎に来るかと問うメール電波は黙って横浜に飛ぶ 

わが娘たった三日で帰り行く駅の階段孫と手を振り
                                
猛暑避けクーラー室にとじ篭る冬眠ならぬ夏眠と称して

向日葵はみなうなだれて見つめいる地面が雨に濡れるを待ちて

わが国に世界で一の長寿居て国定忠治と同い歳とか
   

2010年9月8日水曜日

二番子

   
紫陽花の咲き盛る道嬉々としてランドセルの児ら傘揺らし行く

紫陽花の青の深きに吸われゆく村の悲劇の沈める底に

この夏は田舎に来るかと問うメール電波は黙って横浜に飛ぶ

一番子巣立ちて空きしを整えてつばめは真夏に二番子を抱く

東京にあこがれのぼりし若き日の記憶消せずに田舎に棲まう