2018年7月10日火曜日

ひこばえ100号記念


盗賊に襲われ闇を韋駄天のごと逃げている初夢に醒む

元旦に孫に起され目覚めたり年に一度の大家族制

むらさきの小さな蝶がちろちろと記憶の闇に棲みついている

独り身は気楽でいいと見栄を張り香水などを付けて外出

忘れ得ぬ小一のころ校庭で疎開の少女が林檎をくれし

誰がために鳴きて血を吐く子規(ほととぎす)付かれぬまま闇を見つめる

学校でりんごをくれしかのひとは覚えていないと同窓会で

鯉は今春の温もり身に受けて呪縛とけたかに身をくねらせて

スローライフついには夜昼取り違え目覚めし朝は暗くなりゆく

濁流津波を眼下子は父に「逃げるの」と聞き「宿題は」と問う
(2011年3月11日東日本大震災)

2018年6月24日日曜日


筍は天を目指して伸びてゆく真昼の空に鳶が輪を描く

卯月きて猪の来ぬ竹林は筍豊かせっせと掘りぬ

されど風頬なでる風花散らし雪を舞い上げ木を倒す風

されど雲たなびく雲に雨降らし雷起こし台風となる雲

寒き日に隣の主人身罷りて鯉飼う人なく我が池に越す

2018年6月2日土曜日

桜の苑


鯉は今春の温もり身に受けて呪縛とけたかに身をくねらせて

春うらら筍を掘り初音聞く田舎暮らしも馬鹿にはならぬ

山桜今や散り終え山かげに密かにたたずむまた来年に

友とゆく妖精出そうな満開の桜の苑で見る白昼夢

猫は寝る何事もなくすやすやと夜はあれほどうろついたのに

2018年5月6日日曜日

春彼岸


うららかな坂をのぼると墓墓に花を供えて春彼岸かな

鶯の初音聞く度巡り来る春を感じる白髪が増える

衣替えの季が来たりそこここに抜け毛がまろぶ猫衣替え

雨降れば訪い来る友と語り合うニュースをネタに忖度ありか

また起きた暴力否定の親方の弟子の仕出かすおろかな行為

2018年3月21日水曜日

同窓会


一段と腹が出ている同窓生会に来るなり「俺は元気だ」

一人だけ髪は黒黒染めてなし同窓会は後期高齢

間違えて欠席とされしご婦人は皆にちやほやされて満悦

学校でりんごをくれしかのひとは覚えていないと同窓会で

冬晴れの同窓会の果てて後帰りゆく先現実が待つ

2018年3月13日火曜日

スーパームーン


スーパームーン             実宝教雄

正月を子や孫揃い迎えたり広い農家に先祖の笑顔

家族らで雲間に顔を覗かせるスーパームーンに歓声あぐる

雪積もる冷たき空気に凛として山茶花の赤ますます冴ゆる   

同窓会後期高齢何人の出席なるか賭けをしている

暮れ行きて独りの酒を猫見てるお前も飲むかと無理やり顔に

2018年3月10日土曜日

すりすり


寒い朝鴉の群が舞い狂う縁起でもないまだ死なないぞ

寒い朝赤が目にしむ灰色を背景として山茶花が咲く

寒い朝猫帰り来てすりすりと冷たい体を押し付けてくる

寒い朝なぜ裸だと人間は死んでしまうかなどと思考す

寒い朝思案をするもいい夢か悪夢だったか思い出せない