盗賊に襲われ闇を韋駄天のごと逃げている初夢に醒む
元旦に孫に起され目覚めたり年に一度の大家族制
むらさきの小さな蝶がちろちろと記憶の闇に棲みついている
独り身は気楽でいいと見栄を張り香水などを付けて外出
忘れ得ぬ小一のころ校庭で疎開の少女が林檎をくれし
誰がために鳴きて血を吐く子規寝付かれぬまま闇を見つめる
学校でりんごをくれしかのひとは覚えていないと同窓会で
鯉は今春の温もり身に受けて呪縛とけたかに身をくねらせて
スローライフついには夜昼取り違え目覚めし朝は暗くなりゆく
濁流の津波を眼下に子は父に「逃げるの」と聞き「宿題は」と問う
(2011年3月11日東日本大震災)