2017年12月11日月曜日

おやじ


百舌が来てキリキリキリと鳴き叫ぶ私のどこが気に喰わないか

コスモスのあわれに倒れ空仰ぐよせばいいのになお花つけて

猫帰るまるで夜遊びしたように何食わぬ顔して餌を頬張る

ことわざに「地震雷火事おやじ」親父でなくて台風(おおやじ)だとか

停電で闇を見詰めて思うこと元同僚の名前を手繰る

2017年11月26日日曜日

我は芥子粒(けしつぶ)


広大な宇宙の果てに地球とう惑星に住む我は芥子粒

鈴虫の音を聞きながら夜を過ごす田舎暮しは板についたか

秋の夜の猫と私の競うことどちらが先に天に召される

秋彼岸妹と共に墓参して墓仕舞いする話題に終始

手術後の友に付き合い喫茶店よもやま話で時間を埋める

2017年11月14日火曜日

盂蘭盆会


蜂の子が窓に飛びつきあがきいる外の世界に出してくれよと

三日月が西に傾き赤く耀る明日も暑いと言わんばかりに

孫ら来て先祖らが来てひとときはにぎわいている盂蘭盆会には

猪は耕作放棄地を鍬ならぬ鼻でしっかり耕してある

虫すだくこの暑さにはそぐわないもう一度蝉よ鳴いてくれぬか

2017年8月26日土曜日

金星よりは


通るたび垣根に群れて咲き盛るノウゼンカズラ主はいま亡く

球場に無念のサイレン鳴り渡る高校最後にコールドゲーム

この暑さ金星よりはまだましとつぶやきながら冷房漬けに

降り注ぐ竹の葉やめば夏が来て入道雲の高くそびえる

猫ぐたり毛皮を脱げよ見るからに暑苦しくて目も当てられぬ

2017年7月15日土曜日

蜘蛛の巣


あちこちに蜘蛛の巣張りて払えども又いつの間に元の木阿弥

曇天に青空よりも青く咲く紫陽花の青気分晴れ晴れ

鶯の春から夏へ鳴き渡る妻を娶りて幸多くあれ

誰がために鳴きて血を吐く子規(ほととぎす)寝付かれぬまま闇を見つめる

雨降れば農の休みと友が来て世界のニュースをあれこれ語る

2017年6月15日木曜日

花笑う

           
山笑い猫鳥笑い花笑う初夏の珍事は白昼の夢


薫風を受けてきらきら光る樹々鶯の鳴く里に乾杯


東京に住まう息子をふと思いとりとめのない電話を掛ける


めぐり来て脳の手術を受けたとう翁は出雲の玉串を売る


これからは趣味を持たねばとう友のカメラを求めて量販店に

2017年5月6日土曜日

妹よ


妹よ嫁いで幾年背も丸み今はいずこに初恋の君

風さらう桜吹雪もまた風情散り急ぎてはもはや葉桜

粉河寺処々に桜花は満開に贅沢なりし人は疎らに

竹林にしゃが群れ咲きて光射す夢幻か仏の世界

特養に住まう歌友は小奇麗な部屋にこもりて歌作りおり

2017年4月16日日曜日

猫撫で声


水いまだ冷たき池に鯉たちは身じろぎもせず春を待ちいる

初鳴きの声ういういし山里の風まだ寒き春の真昼に

年寄りの猫に優しくしましょうと猫なで声で餌をやりおり

友が来て大根沢山持ち呉れしさてどう食うかレシピの思案

土蜘蛛がパソコン画面に張り付いて存在示す生きているぞと

2017年4月3日月曜日

マラソン


マラソンを走る人人春日浴び東京の街ゴールを目指す

一輪の真赤な山茶花散り忘れ造花のごとく木にしがみつく

町内の小旅行にて銭自慢トラックに積むほどありて目方で計る

わが猫に風邪うつらぬか気にかかりマスクを付けて床に横たう

わが山河追憶の底おさな日に泥鰌(どじょう)鮒いた小川は何処へ

2017年2月2日木曜日

わが里の蟻通神社の正遷宮

我が誕生日

おめでとう孫ら集いて寿ぐは正月二日の我が誕生日

うっすらと積もる雪見て小躍りす我の心は幼児のごとく

積もる朝ここを先途とカメラ持ち解けぬうちにと撮り急ぎたり

山茶花は被る雪にもじっと耐え赤き花びら我に自慢す

わが猫はひたすらベッドに眠りこけ時折覚めては餌をねだりて

2017年1月9日月曜日

漆黒


どこまでもカラスはその身を漆黒に纏うているが血肉は真赤

劇はてて上弦の月仰ぎ見る熱き舞台の栗原小巻 

忘れ得ぬ小一のころ校庭で疎開の少女が林檎をくれし

夕暮れて時間が止まる物憂さに突然轟く鋭い雷鳴

わが里の自慢の長寿愛子さん天に召されぬ満百五歳